| 少年法「改正」法案(9月29日提出)が、十分な審議を経ないまま衆議院で可決され、成立が強行されようとしている。法案は、少年審判に検察官を関与させるとともに、刑事処分適用年齢を16歳以上から14歳以上へと引き下げ、この年齢の少年受刑者を少年院で処遇できるようにし、また殺人・傷害致死その他故意の犯罪により人を死亡させた16歳以上の少年の事件には原則として刑事処分を適用することなどを内容とするものであり、少年法を厳罰化するものである。今回の法案は、過去の法務省の数次にわたる改正提案と比較しても、際だった厳罰主義を基調としており、少年法の教育主義の理念を決定的に後退させるものである。私たち法学者は、事態を深く憂慮するとともに、法案に強く反対し、すみやかに廃案にするよう要求する。 今回の「改正」法案は、世間の注目を集めたいくつかの重大事件に対する短絡的な反応として、かつ、政治的妥協の産物として作成された。法案が少年非行の原因や少年法の運用状況などについて正確な事実認識に基づいているのか、すこぶる疑問である。 少年法は、非行少年のみならず、広く子どもの教育の根幹にかかわる法律でもある。その改正を論じるにあたっては、本来、少年非行の原因、家庭裁判所や少年院などによる少年法の運用状況、子どもを取り巻く社会環境などについて十分な調査研究を行い、正確な事実認識を踏まえる必要がある。また、少年法の運用や子どもの教育に携わる専門家はもちろんのこと、広く国民の意見を聞くとともに、科学的で理性的な態度の下での開かれた自由な討論を必要とする。また、子どもの権利や福祉、教育に関する憲法、教育基本法、そして児童の権利条約の精神が踏まえられなければならない。 少年非行は社会の歪みを映す鏡といわれる。少年が非行へと至る原因は複雑であり、子どもたちを取り巻く社会環境が深く影響している。最近の非行事件からも分かるように、刑罰の威嚇によって、少年非行が効果的に防止される可能性は少ない。 厳罰化により、保護処分に比べて個別処遇が行われにくい刑務所での実刑を受ける少年が増加する。非行へと至った少年に対しては、懲らしめの刑罰ではなく、専門家のケース・ワークや個別的処遇、さまざまな形の社会的援助によって、その少年が非行を克服して健やかな成長発達を遂げられるよう、教育的に支援することが必要である。厳しい刑罰を科すことによって、少年を長期にわたって社会や家族から切り離し、十分な教育的支援を与えないでいることは、少年が非行を克服し社会復帰することを困難にし、ひいては再犯の可能性を高めることになる。他方、刑事裁判で刑罰の弊害を避けるため刑罰の執行猶予が増える可能性も大きい。そのいずれにせよ、教育による立ち直りの機会は著しく狭められることになろう。 また、刑罰の力に頼っても、被害者が被った痛み苦しみをも含め、自己の非行の意味を、少年に心底から自覚させることはできないのであり、そのためには教育的支援のなかで少年が心を開き、自他ともに人間の尊厳を尊重することができるようにしなければならない。そうしてこそ、再犯の防止と被害者への償いが可能になる。少年法の教育主義の理念は、このことを目指してきた。少年法の厳罰化という安易な方策に頼ることは、これら真に取り組むべき課題を放棄することにつながり、結局、犯罪を行なった少年の犯罪傾向を固定化させ、促進させるという皮肉な結果を生じさせる。 被害者やその遺族のために少年法の厳罰化が必要である、といわれることがある。 しかし、被害者やその遺族の声を注意深く聞くならば、それらの方々の多くは、事件に関する情報を得たいという要求や、被害者の気持ちや感情を少年に知らせて反省を促したい、あるいは心からの謝罪をして欲しいという意見を有しているのであり、必ずしも少年法の厳罰化改正を望んでいるというわけではない。そうした被害者の声は、現行法の運用の改善によって対応できるものが少なくないのであり、少年法の厳罰化改正の必要はきわめて疑わしい。また、少年法の厳罰化改正は、被害者とその遺族への社会的支援を強化することにつながるものではない。 さらに、法案が成立し実施されるならば、家裁や少年処遇の実務に深刻な矛盾を生じさせる可能性がある。14歳以上16歳未満の者が実刑を言い渡され、長期の拘禁となった場合、義務教育年齢の少年にふさわしい教育は確保できるのであろうか。また、少年院での受刑者処遇は、現在の社会復帰のための出院準備教育とは根本的に異なり、刑務所での服役の準備教育となるが、そのような教育の効果は期待できるのであろうか。さらに、これらの少年の法的地位、権利と義務は、少年院の収容者としてのそれなのか、あるいは受刑者としてのそれなのかも明らかではない。また、致死事件の原則逆送は、家庭裁判所の調査機能や少年鑑別所の鑑別機能の低下を招くであろう。さらに、最近の厳罰主義の傾向を反映して、すでに刑務所・少年院・少年鑑別所等では過剰拘禁が生じているが、厳罰化改正によってそれはいっそう深刻となり、教育的処遇の後退に拍車がかかるであろう。 今回の少年法「改正」法案は、このように少年のためにも、被害者のためにも、社会の安全のためにも、有害・無益であり、深刻な矛盾をはらんでおり、50年を超える少年法の実務の蓄積をも無視するものでもある。今回の少年法「改正」法案は、すみやかに廃案としたうえで、なお引き続き社会的に十分に論議を尽くすべきである。 少年法の厳罰化に反対する法学者の緊急声明・賛同人 ■ 11/7現在 230名 |