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 2001年(平成13年)3月26日

法務省矯正局長 鶴田六郎   殿
                       大阪弁護士会
                        会 長  児 玉 憲 夫

勧告書

 申立人A氏及びB氏から当会に対し、人権侵害救済の申立がありましたので、当会人権擁護委員会において慎重に調査いたしました結果、以下のとおり勧告いたします。

第1 勧告の趣旨

大阪拘置所における未決被拘禁者に対する長時間の座位強制の現状一般について、速やかに廃止されるよう勧告する。

第2 理由

1 申立の趣旨
(A氏)
就寝時間・運動時間以外は、横になったりすることができず、座ることを強制されており、人権侵害にあたるというものである。

(B氏)
発熱があるにもかかわらず、横臥が許可されなかったことは、人権侵害にあたるというものである。

2 当会人権擁護委員会が認定した事実関係

(1) B氏の申立について、大阪拘置所への照会の結果は、38.3度以上の発熱が認められた場合は横臥許可を与え、その余は「平熱」という回答がよせられた。平熱の基準が何度かは個人差があり医師の判断を要するもので絶対値はないということであるが、発熱があるにもかかわらず横臥許可を与えなかったという事実までは認めることはできなかった。しかし、そもそも横臥許可がないと横臥が許されないということ自体が人権侵害にあたるのではないかという観点から、A氏の申立と共に、次項のように事実の検討を重ねた。

(2) 大阪拘置所内においては、別紙未決被拘禁者の動作時限表記載のとおり、未決被拘禁者は、1日に約8時間以上(1食を約20分としても、食事時間を除き、7時間以上)もの長時間にわたり、原則として座位を強制され、立ち歩くことも横になることも許されない。

(3) 座り方については、特段の規制はなく、正座、安座、足を投げ出して座ること等、いずれでもよい。

(4) 発熱や体調不良等で医療上必要が認められれば、医師等の判断により、横臥を許可する取扱いとなっている。

(5) このように座位を強制する理由は、約2000名の収容者に対し、昼間は約140名の職員(独居舎房において約40名、雑居舎房において約100名)が視察にあたっているの現状であり、無制限に横臥を許容すると、自殺自傷、急病、事故などで心身に変調を来たした被収容者やいじめなどを迅速に発見することが困難になるというものである。


3 当会人権擁護委員会の判断

(1) 未決被拘禁者には、言うまでもなく無罪の推定が及んでいる。この無罪推定については、憲法上の被疑者被告人の権利保障規定、世界人権宣言11条第1項、自由権規約(国際人権規約B規約)14条2項、被拘禁者処遇最低基準規則84条第2項及び国連被拘禁者保護原則36において規定されている。
自由権規約(国際人権規約B規約)10条1項は「自由を奪われたすべての人は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して取り扱われる。」と規定し、「人間の尊厳」という視座から被拘禁者の処遇問題を捉えている。すなわち、被拘禁者はそれぞれの拘禁目的の達成のために身柄を拘禁されているが、それ以外の点では一般市民として基本的人権を享有するのである。

(2) 未決被拘禁者の身体拘束は、刑事罰としての拘禁ではなく、公正な裁判のために罪証隠滅や逃亡の恐れがある場合に、やむを得ず認められているものである。すなわち、未決被拘禁者の拘禁目的は罪証隠滅防止と逃亡の防止のみである。

(3) 確かに、施設当局者としては、未決被拘禁者の生命身体の安全を図る責務を負っていることは否定できず、施設における「安全と秩序の維持」という要請に基づく必要且つ合理的な制限を受けることはやむを得ないと言わざるを得ない。

(4) 従って、上記(1)、(2)を理由とする未決被拘禁者に対する人権制約は必要且つ合理的な限度でなければならない。

(5) 大阪拘置所の回答によれば、座位を強制する根拠は多数の被収容者を限られた少数の職員で視察している現状下においては、無制限に横臥を許容すると、自殺自傷した被収容者、急病や事故などで心身に変調を来たした被収容者やいじめなどを迅速に発見することが困難になるとのことであるが、座位を長時間にもわたり強制する根拠としては疑問の余地も少なくないと思料される。
 すなわち、実際には、約2000名の収容者に対し、昼間は約140名の職員(独居舎房において約40名、雑居舎房において約100名)が視察にあたっているのが現状であるところ、点呼の機会を増加するなど工夫を凝らせば、未決被拘禁者に対し長時間の座位を強制しなくとも、横臥を許容することにより生ずるとされる問題を防止することは可能ではないかと考えられる。
実際にも、就寝時間、仮就寝時間及び午睡時間等を合わせると、1日15時間の間、拘置所内での「安全及び秩序の維持」が図られているのであり、「安全及び秩序の維持」のために、長時間にわたり、座位を強制することが必要且つ合理的な制限であるとまで言うことができるかについては大いに疑問である。
また、横臥許可するか否かは「医師等の判断による」とのことであるが、医師でない者が判断することもありうることからすると、恣意的な運用がなされるおそれがあることも否定できない。
更に、未決被拘禁者の中には外国人や老人(50歳以上で、肉体的に衰えている者を意味し、右同日現在25パーセント、同別紙による)など、文化的、肉体的に座位に適さない者も存することからすると、一律に座位を強制する現行の処遇には問題があると言わざるを得ない。

(6) 結論
以上のとおり、無罪の推定を受ける未決被拘禁者に対する長時間の座位を強制する現状は、未決被拘禁者に対して日常生活の全てにおいて行動規制を及ぼそうとする思想の発現であり、合理的理由があるとはいうことはできず、人権侵害の疑いがある。したがって、勧告の趣旨記載のとおり勧告する。
以上

未決被拘禁者に対する長時間の座位強制の廃止勧告
大阪弁護士会