

2001年11月28日
市民のための司法改革を求める愛知の会 代表世話人 宇佐見大司
裁判は、市民の生活と権利に深く関わっています。市民生活の中で消費者トラブルや交通事故に巻き込まれたり、職業生活においても、自営業者の企業取引に関する様々な民事紛争や労働者についても解雇や賃金未払い等の問題に直面した時、権利救済と紛争の解決のために裁判所に否応なく関わることになります。市民が乱開発に反対して環境を守る運動や、行政の不正を正すオンブズマン等の市民運動においても裁判を活用することも少なくありません。市民が犯罪被害に遭遇したり、逆に謂われのない冤罪に問われたり不当な捜査に直面することもあります。
ところが、現在の裁判は、市民の生活と権利を守る役割を十分発揮しているとは言えないと考えます。司法が本来の役割を発揮するためには、裁判官を初めとする法曹人口の大幅な拡大、国民の司法参加を促進し陪審制の実現等の抜本的な制度改革が求められており、私たちは司法制度改革審議会に対しても市民のための真の司法改革を実現するために働きかけを行っています。同時に、そうした制度改革を待たないでも、各地の裁判所を初めとする司法関係者・機関が努力すれば実現可能な改善、改革もたくさんあります。
私たちは、昨年七月に市民のための司法改革を求める愛知の会を結成して様々な活動を進めてきました。その中で、各分野で裁判と関わってきた多くの方々と懇談してきましたが、その結果に基づいて、次のような改善要求を行います。
貴裁判所が、これらの改善要求について真剣に前向きに対応されることを強く求めます。
要請項目
第一 迅速で適正な裁判の実現のために
一 適正かつ迅速な裁判の実現
日本国憲法37条は、国民に公平な裁判所の迅速な裁判を受ける権利を保障しています。
あらゆる裁判において、より迅速な裁判を実現することに努めるとともに、裁判の公正さは手続保障によって担保されるものですから、裁判の迅速のみを優先することなく、事案の性質に応じて当事者の主張立証の機会を十分保障するよう努めて下さい。
二 裁判の公開について
1 裁判の公開を実質的に保障するためには口頭主義を徹底し、傍聴人にもわかる裁判を行って下さい。
第2回要請行動に対する回答によれば、地裁、高裁の本庁内の30の法廷のうち拡声装置が設置されているのは、1号、2号、901号、1103号の4法廷に限られています。
傍聴席にも裁判官や代理人等の声がよく聞こえるようにするために拡声装置の設置を一層推進して積極的に活用するとともに、証拠書類が見えるようにするためのOHP活用等の措置を講じて下さい。
2 法廷・裁判所庁舎の警備等について
傍聴に訪れた市民の中には裁判所の警備体制や傍聴人に対する取り扱い等について、威圧的と感じる人が少なくなく、裁判所に対する信頼を損なうものとなっています。
法廷内での過剰な警備、傍聴人への強圧的な態度を取らないようにして下さい。
3 労働裁判等で裁判関係者や傍聴人が宣伝カーで裁判所に来訪した場合、宣伝カーに欠かれたスローガン等を覆い隠さない限り裁判所駐車場を使用させないと言う取り扱いが行われています。また、傍聴人が腕章やゼッケンを着用して法廷に入ることも厳しく制限されています。これらは、いずれも表現の自由を不当に制約するものであり、行き過ぎた措置であると考えます。
そこで、これらの措置を改めることを求めます。
三 裁判手続きに関する要請
1 判決の言い渡しについて、当事者から申し出がある場合や社会的に注目されている重要な事件で判決期日に傍聴者が多数予想される場合等については、判決の理由の要旨を口頭で説明することを励行して下さい。
判決は、裁判の中でも最も注目される手続きでありながら、主文の朗読のみで終わることが少なくなく、わかりやすい開かれた裁判を実現する見地から上記の点について早急に改善してください。
2 高等裁判所の判決は、一審判決への加除修正のみを羅列するわかりにくいものとなっています。高裁判決の判決書について、事案の概要と争点、理由等がわかるものに改善して下さい。
3 労働裁判についての改善要求
(1)解雇や配転、出向、賃金支払い、労働条件の切り下げ等、労働事件の多くは労働者の生活に直結する切実な問題であることを十分認識し、卑しくも企業側の経営上の都合を優先するような判断を行わないで下さい。
(2)賃金差別・男女差別の事件については、審理の長期化をさけるためにも、使用者に対して事実認定に必要となる賃金関係資料を提出させるように努めて下さい。
(3)労働委員会の救済命令の取消訴訟に関しては、労働委員会での審理経過と命令を尊重し、明らかな権限逸脱、違法な命令以外は取り消さないようにして下さい。
4 刑事手続きについての改善要求
(1)逮捕令状発布や勾留等に関する裁判にあたっては、身柄拘束の必要性について慎重に審理し、必要性がないのに取り調べのためだけに身柄を拘束することは絶対行わないこと。
(2)捜査段階での警察・検察の調書その他の捜査資料を被告人・弁護人に証拠開示するようにして下さい。
(3)通信傍受に関する令状は、通信傍受が通信の秘密を侵す危険性が極めて大きいことを考慮し、その必要性等について厳格に審査して下さい。
四 裁判の支援者・団体等が公正な審理・判決を求める要請署名等を提出する場合には、関係者が希望する場合には裁判長(官)が法廷で直接これを受け取るようにしてください。書記官等が対応する場合においても、申し出があった場合には、書記官室のカウンターで受け取るのではなく会議室等を確保して誠実に対応するように努めて下さい。
五 調停についての改善要求
簡易裁判所の各調停委員については、紛争の実情を踏まえた適切な調停を行っている調停委員もおられる反面、自分の価値観を押しつけたり、紛争の実情を理解せず不適切な進行を行ったりする調停委員も少なくなく、また特定調停においては、利息制限法所定の制限利率による利息の引き直し計算に応じなかったり将来利息の弁済に固執したりする消費者金融業者等に対して毅然とした対応をせず漫然と調停を進行させる調停委員もおられるようです。
そこで、調停の一層の充実のため次の要求を行います。
(1)現在の名古屋地裁管轄区域内の各簡易裁判所の調停委員の名簿(氏名、年齢、調停委員就任日、調停委員就任前の略歴等が記載されたもの)を開示してください。調停委員推薦名簿搭載の基準を示してください。
(2)適切で多様な人材を調停委員に選任するため、選任基準、選任方法の改善を検討してください。
(3)特定調停に携わる調停委員に対する研修を強化するとともに、民事調停の調停委員については一定の研修を経ることを義務づける(一定の受講数の研修を受けた後でなければ調停委員としての職務を取らせないこととする)等の措置を取ってください。
(4)調停委員が市民の権利に関わる重要な職責を負っていることに鑑み、ボランティア的な処遇ではなく職責に見合うような然るべき報酬を支払うようにしてください。
第二 市民に開かれた利用しやすい裁判所をめざして
一 庁舎一階等に総合的な利用案内窓口を設置し、裁判出廷者の案内や法廷傍聴希望者等への庁舎の案内を行うとともに、裁判を利用したいと考えている人に対して、裁判の仕組みや裁判提起の方法、弁護士の相談方法等についての広報を行うようにしてください。そのため、同利用窓口には、裁判制度等についての知識を有する職員を配置してください。
二 乳幼児を抱えた者が裁判所を利用しやすいようにするため裁判所内(地裁庁舎あるいは家裁庁舎)に託児施設を設けて下さい。
三 現在の庁舎は、裁判所正面玄関には車椅子の方が入れるようなスロープがなく、また身体障害者用トイレの一が極めて少ない等、体の不自由な方や障害者の方が利用しやすい構造になっているとは言えません。早急に改善してください。
トイレについては洋式トイレを増やしてください。
四 公害環境訴訟等の訴訟当事者が多数にのぼる集団訴訟では、裁判の前後に打ち合わせを行ったりする必要がありますが、裁判所庁舎内にはそのための場所が用意されておらず、大変不自由しています。
裁判所庁舎に100名程度が打ち合わせを行ったりすることができる容量を持つ会議室を設置してください。
五 裁判関係者、傍聴人等に対しアンケートを行う等の方法により、裁判所の施設や裁判のあり方等についての市民の不満や意見等を集め、その結果に基づいて必要な改善を行ってください。
六 最高裁のホームページは、裁判所の情報公開を進める上で積極的な役割を果たしていることを評価します。
ついては、今後、誰でも容易に裁判例等の情報にアクセスできるよう判例情報のデータベース化、ホームページでの公開等を一層推進すること。
インターネットに名古屋高等裁判所、名古屋地方裁判所の独自のホームページを開設し、法廷・庁舎の案内、裁判官の略歴等の紹介、重要判決の紹介、裁判手続きの説明等を行ったりする等、市民に対する情報提供に努めて下さい。
七 裁判所案内のリーフレットを大量に常備すること。
八 裁判や調停について、労働者等が利用しやすいようにするため、夜間・休日サービスを導入し、あるいは拡充してください。
第三 裁判官等の増員等についての要請項目
一 裁判官がゆとりをもって裁判実務を遂行できるようにするため名古屋地裁、名古屋高裁に十分な裁判官を確保して下さい。大都市の裁判所では裁判官1人の手持ち事件数が200件ないし300件というところもあるようですが、これでは迅速で適切な裁判は不可能です。
また、書記官、事務官等の裁判所職員についても十分な要員を確保してください。裁判官や裁判所職員の増員のため最高裁判所に対して強く働きかけてください。わが国の司法予算は国家わずか0.4パーセントに過ぎない貧困な実態にあります。
裁判官等の増員、裁判所施設の改善等のためにも司法予算の抜本的増額のため努力してください。
二 裁判官の思想信条の自由を保障し、裁判官が自らの要求に基づいて市民運動等に積極的に取り組み、市民との接点を広く保つ気風が醸成されるように努めて下さい。
三 裁判官の研修にあたっては、大企業や官庁等での研修に偏した現在の運用を改め、労働者や社会的弱者の生活と立場に直接触れられるようなものを取り入れて下さい。
二 一九九八年に国連規約人権委員会が国際人権規約の日本における遵守状況を審査した際、日本政府に対して、裁判官に対してセミナーや協議会等を通して国際人権規約を周知させること、国際人権規約の個人通報に関する第1選択議定書を日本が批准するように求めた規約人権委員会の勧告を日本の裁判官に周知させることを勧告しました。
第2回要請行動に対する回答の中では、同最終意見書を全判事に配布するとともに司法研修所において平成11年から国際人権規約、国際人権について講義を行っているとの回答が示されました。
今後も、社会権規約を含めて、国際人権規約に関する研修を推進、強化していただくことを求めます。
市民のための裁判所の改善を求める
名古屋地方裁判所・名古屋高等裁判所に対する要請書 |